はじめに——これは経営の話ではない

この文章を読もうとしているあなたへ。まず伝えたいことがあります。これは経営戦略の話ではないし、ビジネス書的な「正解」を示す文章でもありません。

これは、一人の人間が、長年かけて自分の人生から学んだ、非常に個人的な話です。それでもなお、多くの人に響く可能性があると思うのは、この学びが「生き方」についての根本的な問い立てだからです。

仕事で成功したい人も、人間関係に悩む人も、自分が何者なのかわからなくなっている人も。この文章を読んで、何かが変わるきっかけになれば幸いです。

優等生の仮面をかぶったモンスター

私は「いい子」だった。どちらかというと、そう思いながら生きてきた。

学生時代は問題を起こさず、指示されたことをやった。社会人になってからも、「正しい」と思われることをしようと心がけた。ただし、その過程で、常に何かが欠けていた。心の一部が、自分を演じることに吸収されていました。

職を転々とした。9回の転職。その中には、上司と衝突することもあった。時には「お前はモンスターだ」と言われたこともあります。その時の私は、その言葉に傷つくべき人間でした。素直な自分が拒絶されているのだと感じるべき瞬間でした。

でも、違う反応が起きた。その言葉を聞いた時、心の奥底から「あ、そっか」という感覚が湧き上がった。モンスターだ、と言われて、むしろ腑に落ちたのです。なぜなら、その時まで私は、自分が本当はモンスターだということを、実は知っていたから。ただ、そこから目を背けて、「いい子」を演じ続けていただけなのです。

その時に気づいたのです。私が隠してきたものは、決して悪いものではない。むしろ、本来の自分。それを「モンスター」と呼ぶなら、そのモンスターでいい。そう思えた瞬間から、人生が変わり始めました。

「正しさ」を求めるほど、自分が消えていった

長年の間、私は「正しさ」を求めてきました。それは政治的な正しさかもしれないし、ビジネスの論理的な正しさかもしれない。いずれにせよ、社会が「いい」と言うものを、自分の中心に置こうとしていました。

組織を作る中でも、それは変わりませんでした。経営戦略を立てる時、人事制度を作る時、対外的なメッセージを考える時。常に「正しい」ことを追い求めていました。

しかし、その過程で失ったものがある。それは、自分の感情です。孤独を感じたら、その感情を感じるのではなく、なぜ孤独なのか論理的に考えた。怒りを感じたら、その怒りの源泉を分析した。嫉妬を感じたら、それを「成長の機会」に変換しようとした。

感情を感じることが、弱さだと思っていたのです。完璧さを求める人間は、完璧でない部分——人間らしい部分——を、敵だと見なします。そして、それを消そうとするのです。

結果として、私から「人間らしさ」が消えていった。あったのは、正しいことを言う人間。論理的で、感情的ではない、完璧に見える人間。それがどんなに、人間関係を殺し、自分自身を殺していたか。当時の私には、わかりませんでした。

本音を隠すほど、人は苦しくなる

本音を隠し続けると、人間関係は必ず、どこかで破綻します。なぜなら、本当の自分を知らない相手を信頼することは、実質的に不可能だからです。

私の周囲には、多くの人がいました。けれど、本当の意味で信頼できる人間関係は、非常に限られていました。それは相手の問題ではなく、私が本当の自分を出していなかったからです。

さらに悪いのは、隠されている本音が、やがて身体的な症状として現れることです。孤独感は増加し、怒りは鬱積し、嫉妬心は心を蝕みます。それらを「感じない」ようにしようとすればするほど、それらはより強く、より深く、心身に影響を与えます。

本音を隠すことは、一時的には「うまくいっている」ように見えます。周囲からの評価は高いかもしれません。でも、その代償として失われるのは、本人の人生の実感です。毎日が演技。毎日が仮面。そんな状態で、人生の豊かさが得られるはずがありません。

職を何度も変えたのは、その結果です。本当の自分を出さず、「正しい」自分を演じるために、いつも新しい舞台を求めていました。もしあの時、自分の本音と向き合っていなかったら、今も同じループを続けていたでしょう。

モンスターとは「本心そのもの」の名前

ここで、言葉を定義しておきたい。私が言う「モンスター」とは、何か?

それは、性悪説でもなければ、反社会的な衝動でもありません。モンスターとは、単純に「本当の自分」の別名です。社会的な良い子という仮面を取った時に、そこにある、素のあなた。感情的で、時に弱く、時に怒り、時に嫉妬する。そういう、人間らしい部分全体のことです。

悪いのは、その「モンスター」を認識すること自体ではなく、それから目を背けること。隠そうとしたり、消そうとしたり、変えようとしたりすることです。

多くの人が、自分の中にいるこのモンスターを、敵だと思っています。だから戦います。だから疲れます。だから苦しみます。

しかし、もし視点を変えて、それを単に「自分の一部」として受け入れたら?その瞬間から、その人の人生は楽になります。それは、モンスターに支配されるのではなく、モンスターとの関係性が変わるからです。

モンスターを認めてから、生きるのが楽になった

私が「モンスターでいい」と思えた時、生きることが、急に簡単になりました。

不思議なことに、本当の自分を受け入れた時、周囲との関係も変わりました。これまで「いい子」を演じていた時とは違い、人々との関係が、より深く、より本物になっていったのです。

完璧さを求めなくなったことで、他者に対しても、完璧さを求めることがなくなりました。相手の弱さや、感情的な部分を、許容できるようになったのです。その結果として、相手も本当の自分を出すようになり、信頼関係が生まれました。

仕事も変わりました。経営方針を考える時、「正しい」ことから「本当にしたいこと」に軸足を移しました。その結果、より多くの人が共感してくれるようになり、組織としての一体感が生まれました。

何より大きな変化は、心の余裕です。自分を守ることに使っていたエネルギーが解放され、それが他者への思慮深さや、仕事への創造性へ転化されていったのです。

モンスターを隠していた時代の私は、常に疲弊していました。今は違う。本当の自分を受け入れた時から、人生はずっと楽になったのです。

選んだ道を、自分で正解にしていく

これまでの人生で学んだもう一つの大切なことがあります。それは「正解は最初からない」ということです。

長年、私は「正しい選択」を求めていました。その道が本当に正しいのか、常に疑い、常に検証していました。でも、その時点での「正解」なんてものは、存在しないのです。

重要なのは、選んだ後です。一度選んだ道に対して、本当の自分で向き合い、自分たちの判断で進んでいく。その過程を通じて、その道が「正解」になっていくのです。

人生も、キャリアも、組織作りも、全てそうです。最初から「正解」を求めるのではなく、本音で向き合い、本当にしたいことを選び、その選択に責任を持つ。そうすることで、その道は自分たちにとっての「正解」になっていきます。

この考え方は、転職者たちとのキャリア相談の中で、強く感じるようになったことでもあります。多くの人が「正しい転職先」を求めていますが、本当に大切なのは、その職場で本当の自分を出すことができるか。そこで、自分たちが「正解」を作っていくことができるかです。

まとめ

完璧さを求めるのをやめたら、人生が変わった。本音を隠すのをやめたら、人間関係が変わった。モンスターでいいと思ったら、全てが変わったのです。

もし、今のあなたが、何か違和感を感じているなら。毎日の生活が、どこか作り物のように感じられるなら。それは、本当の自分が、声を上げているのかもしれません。

その声に耳を傾けて、本当の自分を認めることから始まる。それが、人生を取り戻す最初の一歩なのだと、私は心から信じています。