「介護職だからこそ、子どもに誇られたい」
カフェでのゆったりとした雰囲気の中で、20代の男性介護福祉士がそう語った。既婚で子どもがいる彼は、短期大学時代に柔道整復師の資格を取得した後、整骨院での勤務を経て、デイサービスで5年以上のキャリアを積んできた。そして最近、介護福祉士の国家資格を取得したばかりだ。
数字や条件だけでは測れない、その背景には、現在の職場での環境とのギャップ、そして何よりも、家族の時間を大切にしながら利用者に向き合いたいという強い想いがあった。正式な面談ではなく、気さくなカフェでの対話だったからこそ、本当の理由が見えてきた。
カフェで始まった、等身大の対話
私たちのキャリア相談は、オフィスの堅い雰囲気の中ではなく、カフェなど落ち着いた場所で行うことが多い。特に初回は、転職を前提としない「話を聞く」という姿勢を大切にしています。
彼がコーヒーを片手に語った言葉は、最初、表面的な不満に聞こえるかもしれません。「制度は整っているはずなのに、実際には有給休暇が取りづらい」「人員が不足していて、やりたい支援ができていない」。しかし、対話を進める中で見えてきたのは、もっと深いところにある「キャリアへの想い」でした。
転職を考え始めた直接的なきっかけは、仕事と家族のバランスではなかった。むしろ、「自分はどんな支援者でありたいのか」「子どもにはどんな親の姿を見せたいのか」という人生の根本的な問いと、現在の職場での実現可能性のズレだったのです。
「子どもに自慢してもらえる父親になりたい」
私たちが何度もこう聞きます。「なぜ転職しようと思ったんですか?」
彼の答えは明確でした。「働くことは、子どもを養うためだけではない。その過程で、子どもに自慢してもらえるような親でありたいんです」
介護福祉士という職業に、彼は誇りを持っていた。人を支援することの価値を感じ、それを仕事にしている。だからこそ、その仕事をもっと充実させたい、利用者と真摯に向き合える環境で働きたいと考えていたのです。
同時に、彼が何度も口にしたのは「社会への貢献」という言葉でした。働くことは家族のためであると同時に、社会に何か良い影響を与えたい。介護職という仕事を通じて、その両立ができる環境を求めていたのです。
これは、給与や勤務地といった条件では解決できない問題です。むしろ、「自分はどう在りたいのか」という人生観の問題であり、転職先を選ぶ際に、その姿勢を理解してくれる職場を見つけることが何よりも大切なのです。
資格を積み上げてきた5年間
柔道整復師からデイサービスへ
彼のキャリアの始まりは、短期大学での柔道整復師の資格取得でした。卒業後、整骨院で数年間の臨床経験を積んだ。しかし、その時点で、彼の中に「もっと人のためになる支援がしたい」という想いが生まれていたといいます。
転機となったのが、デイサービスへの転職です。ここで彼は、高齢者の日常生活を支援することの重要性を実感しました。利用者の笑顔、それまでできなかったことができるようになる喜び、そうした瞬間を積み重ねることの意味を理解し始めました。
整骨院での仕事も大切でしたが、介護現場での経験は、彼のキャリアの方向性を大きく左右することになりました。
介護福祉士取得——気持ちだけでなく「かたち」に
デイサービスで5年以上働く中で、彼は段階的に資格を積み上げてきました。そして最近、介護福祉士の国家資格を取得したばかりです。
「なぜ資格を取得しようと思ったのか」を聞くと、彼の答えは実に正直でした。「気持ちだけではなく、かたちで示したかった」。利用者に対する想い、支援者としての姿勢は、資格という「証」があることで、より説得力を持ちます。同時に、新しいステージに進むための準備でもありました。
資格取得は、単なるキャリアアップではなく、自分のキャリア観を形にするプロセスだったのです。
制度が整っているように見えて、実態は違った
彼が現在の職場について語った内容は、多くの介護職員が経験する現実です。「建前と本音のギャップ」です。
書面上では、有給休暇制度があり、休暇制度も整備されているように見える。しかし実際には、日々の業務に追われ、「取りづらい雰囲気」がある。彼はそう表現しました。人員不足が慢性化していれば、一人が休むことで他の職員に負担がかかる。そうした構造的な問題が、制度と現実のズレを生み出しているのです。
さらに問題だったのは、会社のカルチャーです。「仕事を優先する文化」が強く、家族との時間を優先する働き方がしづらい環境だったといいます。既婚者で子どもがいる彼だからこそ、その矛盾をより強く感じていたのです。
これは「待遇改善」では解決できない問題です。職場の理念、経営者の姿勢、チームとしての価値観が、制度と現実を一致させるために何より重要なのです。
「良くなっていく支援」がしたい
彼が何度も口にした言葉が「利用者の機能改善」でした。デイサービスでの5年間で、彼が見つけたキャリアの軸は、「高齢者の日常生活動作(ADL)の改善」と「在宅への帰還支援」です。
つまり、利用者が施設に依存するのではなく、「より良くなっていく」支援をしたい。入浴、排泄、移動などの日常生活動作を改善し、利用者が地域での生活を取り戻すことをサポートする。そうした「目指すべき成果」を持つ支援がしたいということでした。
現在の職場でも、そうした支援を掲げてはいるかもしれません。しかし、現実には人手不足や時間不足から、個別対応や段階的な支援計画の実行が困難だったのです。
彼が求めていたのは、単に忙しくない職場ではなく、「利用者の成長を支援できる職場」だったのです。
相談員・マネジメントへの挑戦
対話を進める中で、彼の中長期的なキャリアビジョンも見えてきました。
今後のステップとして、彼は「相談員(ケアマネジャー)」や「社会福祉士」といった資格取得を視野に入れていました。さらに先には、「マネジメント」への挑戦も考えているといいます。
これは、現場で良い支援がしたいという想いから、さらに進んで「現場全体を良くしたい」という想いへの発展です。直接支援から、組織運営へとキャリアを広げていく。そうしたビジョンを持つ人材は、採用側にとって非常に価値があります。
同時に、その過程で何より重要だったのは「尊敬できる上司や先輩の存在」でした。彼は「信頼できる人のもとで学びたい」と明確に語っていました。資格や待遇よりも、「どんな人から学べるか」ということが、彼の転職判断基準になっていたのです。
まとめ
カフェでの1時間半の対話を通じて、20代の男性介護福祉士の本当の転職理由が見えてきました。
それは「子どもに誇られる親でありたい」という想いから始まり、「利用者の機能改善を支援したい」という職業観を経て、「信頼できる人のもとでキャリアを積みたい」という明確なビジョンへと繋がっていました。
給与や勤務地といった条件も大切です。家族を支えている彼にとって、生活の安定は必須です。しかし、それ以前に「自分はどう在りたいのか」「何を大切にして働くのか」という問いに向き合うことで、初めて「本当に合った職場」が見つかるのだと、このケースは示唆しています。
介護福祉士として資格を積み上げ、家族を支え、利用者に真摯に向き合おうとする彼のような人材だからこそ、私たちは「自分軸の対話」を大切にしています。条件マッチングではなく、人生観の共有ができる職場を見つけることが、本当の意味での転職成功につながるのです。