「内定は1つもらったけれど、本当にこの会社でいいのかな」——就活を終えたはずなのに、心がモヤモヤしたままの学生は意外と多い。入社前のこの不安感は、実は大切なシグナルかもしれません。
今回ご紹介するのは、大学4年生の女性。マーケティングや戦略に関心があり、複数の企業に応募していたなかで、1つの内定を獲得しました。けれど、その決断に確信が持てない状態が続いていました。キャリア相談を通じて、彼女が発見したのは、「何をするか」ではなく「どう在りたいか」という、より本質的な軸でした。
「何がしたいかわからない」は、本音が整理されていないだけ
「やりたいことが見つからない」「何をしたらいいかわからない」——これは就活生からよく聞く悩みです。でも、実はそうではないことがほとんど。本音がいくつもあるのに、それらが整理されていないだけなのです。
対話を通じて、その本音を紐解いていくと、その人にとって本当に大切なもの——つまり「軸」が浮かび上がってきます。それは求人票に書かれている「職種」や「給与」ではなく、もっと深いレベルでの価値観。その価値観こそが、入社後の満足度を左右する最も重要な要素なのです。
ひとつの内定を前に、揺れる気持ち
彼女が相談に来たとき、最初に口にしたのはこうした不安でした。「マーケティングに興味があります。この会社も悪くないと思うんですけど、本当に進むべき道がこっちなのか、確実ではなくて」。
内定という「結果」は出ているのに、心が納得していない状態。それは、職種や業界の適性をデータで判断しているだけで、自分自身の価値観と向き合っていないサインなのです。
そこで私たちは、別のアプローチを取ります。職務経歴書や成績といった「外的な事実」ではなく、「あなたは、どんなときに心が動きますか?」という問いを投げかけるのです。
「やりたいこと」ではなく「どう在りたいか」を聴く
キャリア相談で重視するのは、履歴書には書かれない部分です。具体的には、次のような質問を通じて、その人の本質的な価値観を引き出していきます。
陸上部で学んだ「自分との戦い」
彼女に「これまで、最も誇りに思えることは何ですか?」と聞いてみました。すると、思い出したのは中学時代の陸上部での経験でした。
「大会に出たいという目標があったんですが、直前で膝を痛めてしまって。そこから必死にリハビリして、本番では大会出場は逃したけれど、自分のベスト記録を更新することができました。その一点に集中して、毎日自分と向き合うことが本当に好きだったんです」。
ここで浮かび上がってくるのは、「成果を出したい」という一般的な動機ではなく、「納得いくまで自分を追い込む」「目標に向かって突き進む姿勢」という、より個人的な価値観です。職種ではなく、その人の在り方に関わる部分。これが軸になります。
「あなたに会いたくて来たんだよ」——信頼される喜び
さらに深く掘り下げると、別の重要な経験が出てきました。大学時代のアルバイト先での出来事です。
「カフェで働いていたんですけど、常連さんから『あなたがいるから来ているんだよ』と言われたことがあって。その瞬間が、今までで最も心が満たされた瞬間だったんです。自分が信頼されている、必要とされているという実感が、何ともいえなく嬉しかった」。
ここで見えてきたのは、報酬や昇進ではなく、「人からの信頼」「人との関係」を最も大切にしているという価値観です。彼女にとって、仕事とは、数字や成果よりも、「誰とどう関わるか」のほうが遥かに重要だということが明らかになったのです。
浮かび上がった5つの価値観
複数の対話を重ねるなかで、彼女のなかに浮かび上がってきた価値観は、5つに整理されました。それは、「他者への貢献」「信頼関係」「チームワーク」「継続的な成長」「専門性の構築」です。
これらの価値観は、最初に「マーケティングに興味があります」と語られた職種選択とは、直結していません。むしろ、どんな職場環境か、どんなチームか、経営者は何を大切にしているのかという、より本質的な問いと結びついているのです。
その視点から、彼女が獲得した内定企業を改めて見つめると、どうか。「職種は魅力的だけれど、組織の在り方がどうなっているのか、自分の価値観とマッチしているのか」という、新しい問い掛けが生まれてくるのです。
「誰と働くか」で人生は変わる
私たちが繰り返し目撃している事実があります。それは、「何をするか」よりも、「誰と働くか」のほうが、その人の人生に圧倒的な影響を与えるということです。
同じマーケティング職でも、信頼や人間関係を重視しない組織と、それを何より大切にする組織では、その人の成長の軌跡は全く異なります。前者では、いくら職務内容が面白くても、1年以内に「ここは自分の居場所ではない」と感じるかもしれません。後者であれば、たとえ想定と異なる業務が発生しても、「この人たちと一緒なら、どんなチャレンジも乗り越えられる」という感覚が生まれるのです。
彼女の言葉を借りるなら、「何をするかよりも、誰と働くかが大事」ということです。この気づきがあれば、内定企業の選択も、これからのキャリアの判断も、より深い納得のうえで行えるようになるのです。
まとめ
就活生が直面する「本当にこの選択でいいのか」という不安は、実は機会です。その不安を放置するのではなく、真摯に向き合うことで、自分たちの軸が見える。就活は、単に「内定を得る」ための活動ではなく、「自分はどう在りたいのか」を問い直す、人生のターニングポイントなのです。
マーケティングや戦略に興味があるというのは、職務内容への適性かもしれません。でも、彼女が本当に探していたのは、信頼できるチームのなかで、自分を高め続けられる環境。その軸が見えたとき、職種選択も企業選択も、もっと自信を持って決断できるようになるのです。
「何がしたいのか」という問いに答えるのは難しい。でも、「どう在りたいのか」を問い直すことなら、誰にでもできます。その問いから始める就活が、本来の意味での「自分軸を持つ就活」なのではないでしょうか。